“光と陰の芸術”を支えるダイナミックレンジ。

α7sは超高感度に特化したSONY社のフルサイズカメラだ。もちろんこの超高感度の領域を使用することは私の撮影に大きなプラスになっているのだが、このカメラはもう一つの底力を持っている、ダイナミックレンジの広さだ。何かとカメラの評価は高解像度に眼が行きがちだが広いダイナミックレンジを持つことは私にとって画素数が上がる事以上に重要だ。広いダイナミックレンジを持つことは高画素とは相反する事、α7sだからこそ得られる秘めた大きな能力だ。
写真は“光と陰の芸術”と云われる。白トビ寸前の微妙なニュアンスや一見黒ツブレしているように見えて僅かにディティールが見える、ダイナミックレンジが広くなければこれは表現できない領域だ。

夢と、心の中にある絵を表現

 黒々とした岩礁に砕け散る波と水中に巻き込まれてゆく泡、奥にはダイバーが本来の居場所である陸に戻る梯子。広いダイナミックレンジを表現する為にあえてモノクロを選択した。単管を組んだこの梯子は、一日の始まりではダイバーは期待と興奮の中で梯子を横目で見ながらエントリーしてゆく。水中を楽しんだ帰り、この梯子が視界に入って来たらダイビングが終了する時。素晴らしい出会いがあった時は興奮の中、上手く写真が撮れなかった時は悔しさを胸に、そしてダイビング最終日はサザエさん症候群のように一抹の寂しさと後ろ髪を引かれる思いを感じながらこの梯子を上がってゆく。人それぞれの思いを載せて梯子を上がってゆく。雲海の上は私達が住む大気の世界。雲海の下はタカベの幼魚たちがサーフィンをするかのように波に戯れる水の中、その奥にかすかに見える梯子が楽園と現実を繋ぐ一本の糸。

夢と、心の中にある絵を表現したかった。広いダイナミックレンジを持つα7sだからこそ表現を可能にしたと私は思っている。

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■撮影データ■

伊豆大島 秋の浜 左側梯子脇

・使用ハウジング:ACQUAPAZZA APSO-A7S(α7s用 APSO-A7ハウジング) + INONドームポートⅡ 使用

・使用カメラ、レンズ:Sony α7s FE28mmf2+フィッシュアイコンバター

1/100 f9 ISO200 自然光

■阿部 秀樹さんがカスタマイズしたAPSO-A7

・グリップ改良(新規製作)

・グリップ上下プレート(新規製作)

・シャッターレバーをグリップに近づける為に製品のシャッターレバーを元に樹脂で改造しました。

・シャタースピードダイヤル(背面)、絞りダイヤル(正面右横)を大径に改良

・夜間撮影のために蓄光シールを各操作系に貼り付け

阿部 秀樹さん(写真家)

阿部秀樹写真事務所代表。最近は日本国内の海に眼を向け知床半島から沖縄まで幅広く活動し、ライフテーマとして水中生物の繁殖行動、夜の海、水中の四季、の撮影がある。又頭足類(イカ・タコ)では国内外の研究者との連携で撮影をおこなっている。

http://www.hideki-abe.com/index2.html